あひるの仔に天使の羽根を
 

何かを感じ取った芹霞が、青い顔をして抗おうとした。



「13年前のことなんて僕は知らない。

僕はどうだっていいんだ。

だけど、君が奪われるというのなら。

君が僕らより…あの男を選ぶというのなら。

それなら僕は――…」



気狂いの血がざわめく。


クルエ。

クルッテシマエ。



「大丈夫。君は傷つけないよ?」



僕は、芹霞を怖がらせないように微笑む。

何処までも優しく微笑みかける。


クルエ。

クルッテシマエ。


嘲るような囁き声。


聞こえてくるのは――

母の残像か、僕からか。


「玲くん…何しようとしてるの。

久遠を、刹那を…傷つけないで」


久遠。

刹那。


かつての櫂の位置を、すんなり奪い取った男に。


「もうその名は呼ばせない!!!」


ああ――

何かが壊れていく音がする。


冷たくなる心に、熱い破壊衝動が流れ込む。


これは――


僕の狂い……?



「どんなに君に恨まれようとも、構わない。

僕は――

狂ってでも、君を手に入れる!!」


それは僕の宣言、僕の決意。


「駄目…玲くん、

久遠を刹那を殺しちゃ駄目!!!!


玲くん、駄目えええええ!!!」

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