あひるの仔に天使の羽根を


そんな時――


「僕達と、帰ろう?」


玲くんの温もりを背後から感じた。


優しい物言いとは裏腹に、回された両腕は次第に力が込められ。


絶対離したくないと言われているようで、切なくなった。


耳元で囁かれるのは、小さな小さな玲くんの声。


「好きだ、好きなんだ…」


熱の籠もった震える声に、あたしの心まで震えた。


温かい玲くん。

ほっこりさせてくれる玲くん。


あたしの大好きな"彼氏"。


ごめんね、玲くん。


まだあと1日"彼女"なのに。


――僕ね、いつも女の子からフラレるんだ。


あたしがフることになってしまうんだろうか。


出来るならば、優しくて傷つきやすい玲くんにとっての、"初めての自分からのさよなら"を経験させて上げたかったのだけれど。


「ごめんね、玲くん」


あたしは久遠に拒絶されたからと言って、玲くんの手を取ることは出来ないの。


それだけの覚悟で、あたしは玲くんも切り捨てた。


だからもう――

こんな冷たい女なんか…忘れてよ。


玲くんは幸せになる権利がある。


< 1,360 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop