あひるの仔に天使の羽根を
 
そして――


寝室の数。

用意された服。


各寝室のクローゼットに収められた服の種類は、個々の個性に準じたもの。


靴のサイズすら。


そう。

誰が泊まるのか判っているかのように。


もし事前に紫堂からの来訪者情報を知り得ていたというのなら、桜はともかく、どうして玲が男性だと判らなかった?


恐らく――

女性部屋に、玲の部屋も用意されているに違いない。


誘いなのか――。


多分玲も何か嫌な予感を感じたはずだ。


だからあいつは、わざと女装を解かなかった。


芹霞の手を握り、"男"を強調して意識させようとするくせに、わざわざ女の真似事までして、防衛の術を持たぬ芹霞と遠坂を護ろうとしている。


結界が張れない地では、体術だけが防衛手段となるから。


玲が女の振りをする限り、あいつは芹霞の盾となりえる。


桜に女装をさせない処が、芹霞に恋情を抱くあいつの意思の顕れだろうが。


男装でこの家に来た手前、桜も男装が強いられる。


滅多なことでは表情を変えない桜も、クローゼットの中にある男性服に、酷く顔を歪めて大きな溜息をついている。


煌は――


部屋に籠もって出てこない。


着替えているのだろうが、それ以上に落ち込んでいるのだろう。


旭達を失い、芹霞から無視されている事実に。


煌のことだ。


俺に煽られ、芹霞に想いを押し付けたに違いない。


それはいつもの如く不発に終わり、だからこそ、


――真剣に聞いて欲しい。


俺だって――そうだ。

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