あひるの仔に天使の羽根を
 

遠坂の真意が判らない。


一体、俺の何処がオトメゴコロを刺激した?


俺が鈍い?


見れば、芹霞だけではなく玲も煌も無言の圧を加えていて。


桜も何やら判っているようで。


まさか――


俺だけ判らない?


そんな俺の焦りの中、壇上では少女がマイクに近づいて。


「あ、あの……私は、各務須臾(しゅゆ)といいます。皆様遠路遙々お越し下さいました。あ、あの……本来なら兄がこの場にてご挨拶すべきなのですが、兄はその……」


言い淀む少女――各務須臾は、ふとこちらに目を向けるとそのまま固まった。


確かに視線は交わったと思う。


じゃあこの奇妙に固まったその原因は


――俺、か?


俺、そんなに気圧していたか?

そんなに荒んだ顔をしていたか、俺は。


「煌ッ!!! あんたも何鼻の下のばして、デレデレしてッ!!!」


芹霞が小さく叫び、ダンッと思い切りハイヒールで煌の足を踏んだ。


「~~ッッてえ~ッッ!!!」


巨体が大きく飛び跳ねて、注目を浴びると、

真っ赤な顔をした煌は涙目のまま、無言で芹霞を睨んだ。


「……情けねえ。素人に簡単に踏まれやがって」


ぼそり。


桜が毒づくが、


――煌ッ!!! あんたも何鼻の下のばして。


……なあ芹霞、

"も"って何だ、"も"って。


話の流れからすれば、

比較対象は


俺……


だよな?



――鈍チン同士だよね。



まさか……俺、

俺……鼻の下伸ばしていたというのか?


誰に――!?




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