あひるの仔に天使の羽根を
――――――――――――――――――――――――――――……

談話室には俺達以外誰もいない。


各々自室に戻ったのか、それともこの家にあるビリヤードなどの遊技室にでも集って酒でも酌み交わしているのか。


未成年ということは、概ね逃げる良い口実になる。


そんな下らぬ遊びに付き合う義理はない。


それを感じ取ったのか、荏原が通してくれた談話室に来訪者はなかった。


俺には考えねばならぬことがある。


私情より何より、俺達は紅皇代理なのだから。


"約束の地(カナン)"には、不穏な空気が付きまとっている。


まず――

俺達を襲った神父や修道女の服を着た刺客達。

俺達の…紫堂の力を無効化する道具で海に逃げられ、

その海では奇怪な生物が漂い。


羽根の生えた、正体不明の双子。


双子を殺した狂信者と呼ばれるもの。


誰も知らぬという地下の鏡の迷宮と繋がる、闇属性で開く石の扉。


辿り着いた先では――


「なあ、櫂。

何か――感じないか?」


玲が鳶色の瞳を鋭くさせ、少し声を低めた。


「普通ではない――

殺気めいた奴の気配か?」


すると玲は目を細めた。


「やはり――気づいていたね。

船が爆破されたあたり、からかな。

複数の……意図的に気配を殺した者達が紛れ込んだ」


同感だった。


「事故ではないね、あれは。

もっと作為的なものだ。

私怨かもしくは――」


「この地の故の抗争か。

各領域を行き来出来る夜

何をしでかす気なのか」


だが――


「何とも腑に落ちん」


俺は言った。




< 228 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop