あひるの仔に天使の羽根を

「大丈夫、神崎?」


由香ちゃんが心配そうに見つめてきた。


「大丈夫だよ。どうして?」


極力悟られないように、あたしは笑顔を作る。


「うわっ。不気味……」


「え?」


「……。いや、判っていないならいいけどさ」


何とも意味不明な言葉をくれた。


「荏原さんは猛反対したんだ。だけど須臾嬢の言葉に乗ったのは紫堂だ」


――ずくん。


陽斗が泣いた。


「そして師匠もそれに賛同した。紫堂の強者が2人もやられている最中、男だ女だという理由で離れていたくなかったんだね。

あの時の須臾嬢、それは毅然と荏原さんを窘(たしな)めてね、まあ彼女の一存でここにいるわけだけれど、これは他の来客の手前、オフレコということで」


彼女は――


「それは須臾嬢、如月と葉山の介護に尽力してくれてね、彼女も皆と同じく一睡もしていないはずさ。まあ実際色々と動いてくれたのは荏原さんなんだけれど、指示したのは彼女だからね」


そこまでして――


櫂と一緒に居たかったのだろうか。


ああ、そんなことを考えてしまうあたしは何て浅ましい。


「そんな姿見たら、師匠も性別偽っていたのに良心が咎めたんじゃないかな。ボクが気づいた時には、突然鬘をとって"男"を宣言してさ。

驚愕に満ちた荏原さんのあの顔を見せてあげたかったね、慌てて男ものの服を用意してきたよ」


由香ちゃんは愉快そうに笑うけれど。

何だか玲くんらしくないと思った。


あんなに大勢が集まるパーティでさえ、"女"を貫き通した玲くんが、たかだか介抱してくれただけで、簡単に警戒を解くなんて。


それくらい、須臾という少女は魅力的なんだろうか。


あたしを弾き出すくらいの、"美"の領域を持っているのだろうか。



何だか――


悔しくなった。




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