あひるの仔に天使の羽根を
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煌の元に居る芹霞と由香ちゃんを残し、僕は櫂の元へ行った。


真横には須臾。


恥じらうように、その顔は紅潮している。


判らない櫂ではあるまい。


判っていればこそ、その顔はひきつっている。


それは多分、付き合い長い僕だから判ること。


櫂はこの少女の横にいるのが苦痛で仕方が無いらしい。


多分、行きたいのだろう。


芹霞の元に。


地下の鏡の迷宮直前に、確かに仲違いをしていた2人。


何とか芹霞が、彼女が蟠(わだかま)りを棄てることで、考えないようにすることで、櫂との関係を修復しようと試みていたけれど、それでもそれは決定打ではないのだ。


そんな曖昧に終わらせるのではなく、もっと明瞭に双方納得いくまで話したいに違いない。


2人の今後の関係について。


櫂だってもう限界だろう。


あの時。


2人の間に何があったのかなんて容易に想像がつく。


僕が見ていれば発狂しそうなことが起きていたに違いない。


それを許し、2人きりにさせたのは僕。


そして現実に――

居合わせたのだろう煌が煽られ、告白すると言った。


あの煌がそう決意した。


そしてその決意を遮るように着いた桜諸共、

いま重体だ。


僕があの時、櫂と芹霞を2人にしなければ、

こんなことにならなかったかもしれない。


本当に事態は悪くなることばかり。


全ては僕のせいだと思うのと同時に……


出来るならば。


もう二度と修復出来ない関係まで堕ちて欲しい。


永遠どころか刹那にその絆が絶たれて欲しい。


芹霞を救い出せるのは僕だけであって欲しい。


櫂の攻撃から、逃げて逃げて逃げまくって、僕の処に飛び込んできて貰いたい。


そう考えてしまう僕は、冷酷なのだろうか。


「玲、ちょっといいか?」


隣から離れない須臾に疲れ切ったのだろう、櫂が憔悴した顔で僕を呼ぶ。


僕はそれまでの浅ましい考えを振捨て、いつものように微笑みながら櫂の元に寄った。




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