あひるの仔に天使の羽根を
 

「あ、桜ちゃん、身体は大丈……ぎゃああ、乙女の顔にいきなり何する!?」


頬に直撃食らった煌の右手。


反射的にあたしは煌の顎にアッパーを捻じ込んだ。


もうこれは、小さい頃からの日常茶飯事な喧嘩の一環で。


身体が無意識に動いてしまうのだから、仕方が無い。



「せ、芹霞さん……」



そんなあたし達を直視した桜ちゃんは、暫し大きな目をしばたかせて動かない……というより動けないようだ。


「あのさ、桜ちゃん。旭くんの……」



――ドカッ!!!


またもや煌の手が後頭部直撃。



「しつこいッ!!」



――バシッ!!!



あたしの平手打ち。



「ね、桜ちゃん、旭くんの軟膏を持ってきたよね?」


何事もなかったかのように笑顔で話を続けたあたしに、桜ちゃんはきょとんとした顔をして。






「……え?」






違った――





……の?





あたしは一気に青ざめる。



じゃあ、今煌が痛がっているのは……


怪しげなものつけちゃったあたしのせい!?



「煌ーッ!!! ごめん、間違ったみたいッ!! なかったことにして~ッ!!!」




思わず半泣き状態で煌に縋る。


「芹霞さん……まさか……」


桜ちゃんは床に転がっていたあの容器を拾い上げ、


「桜ちゃんの服から落ちたから、てっきり桜ちゃん櫂を治した薬を持ってきたのかと思って……」


本当にあたしはもうぐすぐすで。



鬼が出るか蛇が出るか――



どっちに転んでも所詮は悪しきものだったのだと項垂れた時、



「……正解です」



「え?」



「……桜としたこと、すっかり……あの軟膏を持ってきたこと、忘れてました。即効性があるあの成分は何か、気になったので……」


グッジョブッ!!


あたしは両手親指を桜ちゃんに向けて、ベッドの上で小躍りした。


あたしが跳ねると同時に、煌の巨体も揺れたようで、苦悶の声も多くなったけど、男ならそれくらいは我慢をしッ!!!



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