あひるの仔に天使の羽根を
しかも御階堂――。
懐かしい名前だ。
2ヶ月前、分家出の1人の男子高生によって、御階堂家は古い歴史で培ってきた権力の多くを失い、それを成り上がりの紫堂財閥が手に入れた。
御階堂家は良き血統の家柄で。
そう考えて、改めて招待客を眺めてみれば、どれもこれもが遡れば平安時代だの鎌倉時代だのまで行き着く貴い家柄で、元子爵の各務家と交じり合うことにに何ら遜色はなく。
そう。
ただ紫堂財閥だけが異質。
現状の勢力的には引けをとらないはずだが、やはり古い家柄というのは、素性がどうも気になるらしい。
こうした侮蔑に満ちた態度を向けられることは慣れている。
紫堂の次期当主の看板を背負った時から、俺は常にその中で生きてきたのだから。
「……須臾」
俺の皮肉を無視して、俺の横に居る、着物姿の須臾に目を向ける。
それは、母親とは思えぬ程の冷たい眼差しで。
そして、
「はい……」
俯きながら蚊の鳴くような声で返事した須臾の双肩も、小刻みに震えていて。
「儀式には、彼を選んだの?」
彼……とは俺のことか?
「まだ……決めていません。ですが、了承を得られるのなら……」
そう言いながら、須臾は俺に目を向けた。
懇願するような、奇妙な眼差し。