あひるの仔に天使の羽根を
 
「……大丈夫?」


遠坂由香が私を覗き込んでくる。


「大丈夫だといいんですけれど……だけどあの櫂様がこんなになるのは余程」


「違う。紫堂じゃなくて……君のことだよ」


私は訝しげに彼女を見る。


「凄い……傷ついている顔、してるからさ」



「……私が?」


何に?


「ん。ショックだったんじゃないかなってさ、紫堂が……神崎に告ったのがさ」


「え?」


どくん。



何だ、この……心臓の鼓動は。


理解不能な遠坂由香の言葉に、何故私が惑わされる?



「まあ、いいや。ね、葉山。あれ、何とかしないと。判ってないぞ、ボク達がここにいることすら、紫堂は」


遠坂由香は、今までの会話がまるで何でもなかったかのように、今度は櫂様の話題を振って、私に苦笑してくる。


私だけ、その話題の切り換えについていけずに。


「なんかな。恐いくらい全て……姉御の言った通りになっていくな…」


そんな呟きは、動揺していた私の耳には届かなかった。


< 381 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop