あひるの仔に天使の羽根を

「じゃあ仕方ないね。"罪の洗滌"は"聖痕(スティグマ)の巫子"あってのものだからね。

判ったよ、じゃあ教会に連れてってあげる。きっとその場所、わかんないんでしょ。こんな処にいるくらいなんだからね?」


「司狼(しろう)様、お役目のお時間なんですが……」


黄色い新婦服の男が、畏まって言葉を発した。


「…ねえ、見て判らない? どっちが大切なことか」


不機嫌そうに、金の瞳が揺れる。


大切なこと。


それは彼のお役目の方だろう。


何のお役目なのかは判らないけれど。


「今はお姉さんと一緒に教会に行く方が大切でしょ?」


そう――言い切られた。


言葉が出ない。


あたしも、黄色い神父も。


「しかし、もう時間が……」


「拗いね、"黄色"風情が。"深淵(ビュトス)"に落とすよ?」


がらりと変わった口調。


ドスが利いたような、剣呑な低い声は誰から漏れたものか。


その言葉で、黄色い男は震え上がって引き下がる。


私も密かに同じ反応だ。


「じゃあ、行こうか、お姉さん」


何事もなかったかのようににこりと笑って、あたしの手を可愛らしく握る少年は、どこまでも子供らしく無邪気に。


あたしは年の差ある少年に、笑顔の圧をかけられたように感じて、逃れられないような感覚に陥る。


それでも抵抗してみたくなる。


「教会に"男の子"が近づいてはいけないんじゃないの?」


すると少年はけらけらと笑った。


「普通の男はね。だけど僕は"白"だし特別だから、大丈夫」


それは徒労の心配だとでも言うように。



「さあ、行こう、お姉さん。行きたいんでしょ、教会に」



金色の瞳はあたしを見た。



だからあたしは――


頷いた。



頷かざるをえない、そんな気がした。



――ぎゃはははは。



陽斗の面影を持つ、小さな子供に。


多分――


勘違いなどではないだろう。



この少年は――


危険な存在だ。


あたしは唇を噛みしめた。


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