あひるの仔に天使の羽根を
 


「櫂の邪魔しちゃ悪いし、来ちゃった。

由香ちゃんは、何でもお着替えをするらしいし。

ふふふ。

櫂が居るから、沈没の心配なくてよかったよね」


芹霞が満面の笑みで、感嘆の声を出した。


かなり集中しているのか、櫂の顔は多少苦しげだったけれど、


櫂の潜在能力を思えばこれくらいは平気だろう。


櫂を信じ切っている芹霞の眼差しを横目で見れば、


その相手が僕ではないことに胸が痛んだ。


少し前までは、僕だけにその眼差しを向けていたのに。


僕だけの芹霞だったのに。


場所を変えれば、いつも通りなのか。


僕の…半ば生殺しの2ヶ月は、


僕と芹霞の関係を何も進展させてはいないのか。


胸が、苦しさに音をたてた。


「やるせないな、本当にもう…」


僕の呟きは風に消え。


そんな僕を芹霞は、不思議そうに見ているだけで。


「ミステリアスな美女って素敵ね。あたしうっとりしちゃった」


僕の何を見てそう言ったのかは判らないけれど、蕩けるような眼差しを向けられれば。


僕は"男"で。


理性で無理矢理ねじ伏せていた、本能的な支配欲が首をもたげてくる。


今日は"我慢"の解禁日だから、余計。



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