あひるの仔に天使の羽根を


海の底に深く沈んでいく感覚。


押し迫る水圧に、肌という肌が圧迫される。


深遠なる青の色。


不思議と落ち着いた心で居られるのは、櫂があたしを抱き留めてくれているから。


心配げな眼差しに、優しさ滲ませて。


こんな時でも櫂は櫂で。



叩き付けられた衝撃に、暫し底に向かって沈んだけれど、沈みきったタイミングを見計らい、櫂があたしを抱いたまま水面目指して泳ぎ始めた。


いつ――泳げるようになったんだろう。


本当に櫂には吃驚させられるばかり。


8年前なんか、水面器に張った水さえも、怖がって顔を近づけなかったのに。


青い視界の中に、朧な何かの影。


てっきり――皆かと思った。



――どくん。


違う。



そう認識したのは、赤子のような小さすぎる体躯故か。


それとも陽斗が奏でた警告故か。


嫌な予感がした。


影はこちらに近づいてきて。


あたしは恐怖を感じて櫂にしがみついた。


瞬間的に――


判ったんだ。


赤ちゃんがこんな深くを泳がない。


ひらひらと動く四肢らしきもの。


ああ、あれは――。



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