あひるの仔に天使の羽根を


早く何とかしなければ。


彼らの帰りを待っている時間はない気がする。


櫂様が、須臾を芹霞さんと思い込んでいるのなら。


想いが通じたと思っているのなら。


櫂様は、強引にも性急に事を進めるだろう。


そうなってからでは遅い。


まだ、口付けだけで済んでいる内に。


芹霞さんを。


櫂様の本当の想い人を連れてきて、現実を…真実の愛を呼び覚まさないと。


こんなのは櫂様じゃない。


認めない。


私は、芹霞さん以外の女性を認めない。


私は遠坂由香に向き直る。


「由香さん。何があっても、あの2人を邪魔し続けて下さい」


「ふへえ!!?」


「いいですか、これ以上進展させないで下さい。私が…僕が芹霞さんを連れ戻します。だからどうか、どんなに叩き付けられても、どんなに痛みつけられても、不屈の闘志で邪魔し続けて下さい」


「は、葉山……自信ないよう」


「自信なくても、絶対して下さい。お願いします」


私はぺこんと頭を下げ、抱き合う2人の姿を横目に温室を飛び出した。




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