あひるの仔に天使の羽根を


やがて目の前に歪な…偏面体の黒い建物が見えた時、突如数十人は居ると思われる黄色い神父達に取り囲まれる。


確かに私は咎人だ。


此の地の禁を犯し、境界を突破していたのだから。


つけられているのも知らず。

間近に敵が潜んでいたことすら気づかず。


今、私の精神は正常ではないから。


だから再び、性懲りもなく取り出した黒曜石。


取り出してみてから、顕現出来ない現実を知るはずが――


「!!!」


私の手の中には、見慣れた私の裂岩糸。


見間違いじゃない。


これは私の愛用する武器だ。


歓喜に震えが走る。


遠く離れていた恋人に巡り会えた気分、とでも言えばいいのか。


私は軽く目を瞑り、深呼吸をする。


久方の感覚を取り戻すように。


神父達が一斉に私を捕えようと動く気配。


そして私は目を開け、自己主張の激しい黄色に向けて、両手の中の糸を網のように放射状に拡げると、一気に横に引く。


瞬時に煩い色彩は、黒い風景に溶け込んで。


地面に積み重なるのは、目障りな黄色と見慣れた真紅色が入り混ざる、神父服を着た物体。


私だって鬼ではない。


生かしてある。


やがて時間差で、空中からばらばらと男達に降り注ぐのは、


「ぎゃあああああ!!!」


彼らの欠損した手足。


男達は目の前に堕ちたそれを見て、初めて己の置かれた状態を知り、恐怖に囚われたらしい。

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