あひるの仔に天使の羽根を

・憤怒 煌Side

 煌Side
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櫂が――


おかしい。



各務に戻ってきた時の櫂は、悠然で不敵で、いつもと同じだった。


だけど不機嫌であるらしく、なぜかびくびく怯えて椅子の後ろに縮こまっている遠坂を睥睨している最中で。


どんな理由であれ、櫂があからさまに他人に感情をぶつけるのは珍しい。


ぶつけたことがないとは言わねえ。


昔から、芹霞を介せば、もっと酷い荒れ様になるから、暴れていないだけ今はずっとマシな方で、桜がすっ飛んでくるような異常事態には思えなかった。


だけど桜は、依然堅い顔のまま櫂を見ている。


直ぐに荏原が、俺達の帰還を耳にしたのかやってきた。


俺は玲に指示された通り、荏原の案内によって、俺の肩で気絶しているイクミをベッドがある空き部屋に置いてきた。


一瞬。


荏原がイクミを見た眼差しが蔑んだものだったのが気に食わなかったけれど、最下層の罪人だと言ってたから、そういう目になってもおかしくねえのかもな。


イクミが身に纏うボロ切れや、痩せ具合見てれば、普通の生活者とは言い難いし、何より夜は男女別でというルールをねじ曲げて、新たに外部から人間追加して、面倒みろって言ってんだしな。


よく荏原が承知したもんだ。


意識がなくてもイクミはパソコンを胸に抱いていて、触れば火を吹く俺の特性から、仕方がなく今はそのまま放って置くことにした。


俺が部屋に戻った時、芹霞をソファに横たえていた玲はその隣に座って、心配そうに芹霞を見ながら櫂に体験談を語っていたけれど、櫂は俺が見た限り、芹霞を一瞥しただけでまるで反応がねえ。


おかしいだろ。


芹霞が還ってきたんだぞ?


あの櫂が何で芹霞を放置する?


それは玲も十分不審に思ったらしく、会話を止めて端麗な顔を歪ませた。


そんな眼差し受けた櫂は、苦笑した。


「随分と疲れているようだな。話は明日にしよう。朝、またここに集まれ」


そう、芹霞を置いて部屋から出て行こうとした。




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