あひるの仔に天使の羽根を
桜は何も語らずにいるし、玲は険しい顔のままだし、遠坂なら知っているだろうかって訊けば、
「浮気より性質悪いもの」
そう、顔を顰めた。
更に説明を求めた時、ソファの上の芹霞が苦しげな声を上げて身動ぎした。
尋常じゃねえ汗に、玲が芹霞の額に手を当てれば、どうやら熱が出ているらしい。
「玲の結界の中にいて熱なんて、どんだけ芹霞の具合悪いのよ?」
「……。とりあえず少しでも回復出来るように、ゆっくり寝かさないと」
玲の言葉に皆頷き、前日使用した芹霞の部屋に赴いて、寝台に芹霞を横たえた。
遠坂が芹霞を着替えさせている間、俺達は部屋の外に追い出されて。
「なあ、煌。お前今、ピアスを偃月刀に顕現出来るか?」
玲は抑揚ない声音で口早に聞いて来た。
「……桜、お前はどうだ?」
桜は首を傾げて玲を見た後、手に黒曜石を乗せた。
俺も耳に納めたピアスを手に取り、今までのように偃月刀の顕現を試みる。
だけど――
「!!!?」
出来ねえ。
慌てて桜を見れば、桜も同じようだ。
先刻まで、武器を使用していたんだぞ、俺達。
流石に、"神格領域(ハリス)"戻れば神父の数も少なくなったし、目立たないよう石に戻したけれど。
「僕の結界も効いていないんだ。
元々結界を芹霞と桜に分けていたからね、いつも程の結界力の強さはないけれど、各務家に戻ってきた辺りからそれが更に段々と弱まっていたんだ」
「各務の家がおかしいのか!!?」
「……。或いは……各務の家の者が妨害しているか」
端麗な顔は、険しさに翳っている。
「さて、どうしようか。僕の力が届く……増幅出来る環境に連れるか、寝たきりにさせておくか。だけど正直、この家に長く芹霞を置いておきたくない」
そう、鳶色の髪を玲が掻き上げた時、部屋のドアが開いた。
芹霞の着替えが終わったらしい。
玲の後を追って部屋に入った俺は――
「……増幅?」
腕環の存在を思い出す。