あひるの仔に天使の羽根を


「具合……よくなったんですね」



足を止めた千歳は、激しく潤んだ目でこちらに振り返る。


優しい、性分なんだろう。


「紫堂さん、とても心配してました。よかったです」


決して、"美貌"とは言えない。


須臾や久遠と同じ血を引くということは信じ難い。


だけど、


「……ありがとうございました」



明らかに、彼らより人間味があり安心出来る。


私の謝辞に、千歳は真っ赤になって笑った。


その赤さは、まるで馬鹿蜜柑のようだ。


「須臾……さんの態度はいつもああなんですか?」


単刀直入に尋ねると、千歳は顔から笑みを消す。


「ええ、お見苦しい処をお見せしてすみませんでした」


その顔は、"現在進行形"で酷く傷ついていて。


そして静かに問われる。


「紫堂さんは、姉さんを"永遠"に選ぶことを了承されたんですか?」



私は頷く代わりに、千歳から顔を逸らした。


「儀式が始まれば、…紫堂さんの覚悟次第では、もう紫堂さんは貴方方の元に戻りません」


そんな堅い声に、私は千歳の視線を合わせた。


「それは昔から変わりない」


その言葉は、私を驚かせた。


「…櫂様以外に、そんなことがあったんですか?」


儀式は。


須臾の儀式は、初めてのものじゃなかったのか。


その儀式に、櫂様が必要なんじゃないか。


千歳は、その問いに曖昧に笑うばかり。




< 752 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop