あひるの仔に天使の羽根を


「辛いのは……てめえだけじゃねえ」


桜の声が震えていて。


「皆、皆辛いんだ。

浮かれている奴は誰も居ねえ。

玲様も芹霞さんもだ」


俺は言葉が出ず、暗闇に溶けた桜の声だけを聞いていた。


「今夜――

玲様は勝負に行く」


「あ?」


嫌な予感がして、低い声が出た。


心臓がどくどく煩くて。



「今夜――

玲様は芹霞さんを抱く」



そして――



「僕達は――

与えられた役目を果たすのみ、だ」



不気味な程に――


暗闇は黙した。
< 838 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop