あひるの仔に天使の羽根を
 

僕は一体何が起こっているのか理解できなくて。


いや違う。


今生じている"奇跡"を、認められずに居て。


「だけど罰則!! "玲くん"だからね!!」


…名前の呼び方なんてどうでもいいよ。


名前なんかより、


「僕は君に……」


「優しい玲くんを、そういう人だと怖がってしまったあたしもあたし。だからここはおあいこってことにしない?」


そう笑う芹霞の手は、小刻みに震えていて。


震えて……いるんだ。


まだ怖いんだ。


それでも――


「だって、彼氏を信じるのが"彼女"でしょ?」


僕を見捨てないその瞳に。


僕はただ……


「……ええええ!?」


その言葉に僕はただ驚いて。



「僕達……まだ付き合ってるの!?」


とうに破綻したと思われた、偽りの絆。


それすら――


「も、もしかして"お試し"っていうのも無効だった?」


君は繋ぎとめようというのか。


「うわ、あたしもしかしてKYって奴?」


若干顔色を変えた芹霞に、僕は、


「君が望むなら、いつまでも」


どこまでも感謝と愛しさを込めて、笑った。


僕の懐で薄らいでいた芹霞の残香は、夢幻に散らずに現実に留まる。


ありがとう。


こんな僕を許そうとしてくれて。


本当にありがとう。


本当に――


大好きだよ?


まだいいのかな。


許されるのなら僕は――


僕は、君を好きでいたい。

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