逢いたい夜は、涙星に君を想うから。



星空の下、橘くんはあたしを背中におぶって、左右を草木で囲まれた暗い遊歩道を歩いていく。



彼の首に腕を絡めて、彼の後ろ姿を見つめていると、



一緒に過ごした時間、彼の自転車の後ろに乗っていたときのことを思い出す。



あのときと何も変わってない。



優しくて温かい、大きな背中に安心する。



あたしの声が出ないことに気づいた橘くんは、あたしがうなずくか首を振るかで答えられる質問しか、してこなかった。



「足、痛くない?」



橘くんは少しだけ振り向いて聞く。



彼の背中に掴まったままあたしがうなずくと、彼は優しく微笑んでまた前を向いた。



どうしてこんなことをしたのかとか、何があったのかとか、橘くんはあたしを責めることも怒ることもせず、



詳しいことは何も聞こうとしなかった。



橘くんはいつもそうだった。



誰にもわかってもらえない気持ちも。



苦しみも悲しみも。



何も言わなくても、何も聞かなくても。



あたしの気持ちをいつだってわかってくれた。



誰にも聞こえないはずの心の声を、聞いてくれた。



きっと、そんな人は



この世界にたったひとりしかいないと思う。
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