TENDRE POISON ~優しい毒~


「どうしたんだよ。その革ジャンとTシャツ。まさかあいつんんちで何かあったんじゃ……」


明良兄が顔を強張らせて聞いた。


あたしは神代に水をこぼされたことと、ナンパ男共から保健医が助けてくれたことをかいつまんで話した。


なにもなかったことを知ると、明良兄は目に見えてほっとした。





「で、何か掴めたか?」


ソファに座るなり、明良兄が口を開いた。


「ううん……」


あたしは小さく首を振った。



「そっか……こっちはばっちり写真撮れたぜ。まぁちっとぼやけてはいるけどな」


明良兄は必死に慰めの言葉を探してるようだった。


「ありがとね」


あたしもちょっと笑ってそれに答える。



明良兄の隣に腰を下ろすと、明良兄があたしの顔を覗き込んできた。


「何?」


明良兄はあたしの頬を親指でそっとなぞった。


「涙のあとがある……、雅、何かあったのか?」


あたしは顔を逸らした。


「何も…ただ、あいつの好きな奴の名前は分かったよ」


「名前……?」






「うん。“まこ”っていう女」



言ってまた悲しくなった。


涙が出そうになるのを必死にこらえて、飲み込んだ。



明良兄があたしを自分の方に向かせた。



「お前……それで泣いてたのか?」






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