TENDRE POISON ~優しい毒~

ピザが届いても、僕はまったく手をつける気になれなかった。


まこはいつもどおりの食欲でピザを口に運んでいる。


鬼頭は怪我のしていない方の左手で、食べるスピードは遅いが、それでも何とか食べている。


僕の食欲は全く進むことなく、傍らに置いたビールだけがやたらと進む。


飼い犬のゆずだけが僕の周りを物欲しそうにいったりきたり。


「お前、飲んでばっかじゃん。ちゃんと食えよ。胃を壊すぜ」まこが咎めるように僕を見てピザを取ってよこす。


「そうだよ、ちゃんと食べなきゃ。ただでさえ細いんだから」


と僕の向かい側の鬼頭も軽く笑った。



鬼頭……


いつもどおりだ。良かった。



「こいつ、細く見えるけど意外と筋肉あるぜ。細マッチョっていうの?」とまこ。


「細マッチョ?先生が?うけるっ(笑)」


鬼頭は声をあげてからからと笑った。


いつもどおり……というよりいつもより上機嫌にさえ見える。


ゆずがいるおかげかな?鬼頭はゆずが可愛くてしかたないみたいだ。


ずっとゆずを撫でて、時折ゆずで遊んでいる。


沈んでるのは僕だけだ。


と言うよりも、鬼頭とまこ。意外に息が合ってるように見えるんだけど。


僕は向かい側に座る楽しそうな二人の姿を見ると、何故かお似合いだと思って、そしてそう思った自分にちょっと苛々を募らせる。




僕は、一体どうしたというんだろう。






< 219 / 494 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop