TENDRE POISON ~優しい毒~

売店の前には長いすがたくさん並べてある。


売店でコーヒーを買うと、あたしたちはその椅子に並んで腰掛けた。


「どう?怪我の具合は?」


ちょっと疲れた表情を滲ませながら、明良兄がやんわりと聞いてきた。


「うん。今は大丈夫」


あたしも曖昧に笑みを返した。


「神代の家では?何もないか?」


何もされてないか?と聞きたいのだろう。言葉の裏に隠れた意味を感じ取った。


「今のところは」


あたしは缶コーヒーを両手で包むと、手のひらを温めるように強く握った。


「……そっか。ごめんな、力になれなくて。


お前にいつも危険な目に合わせて。兄貴失格だな」


明良兄は自嘲じみた笑みを漏らした。


「そんなことない。あたしにとって明良兄は最高のお兄ちゃんだよ」


あたしは微笑んだ。


明良兄もこの状況に参ってるって分かったから、元気づける為に。




「お兄ちゃん……か」



だけど明良兄は一言ぽつりと漏らしただけだった。







< 276 / 494 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop