TENDRE POISON ~優しい毒~

いつだったか、僕がまだ大学生のころ、


構内の喫煙室で一人ぽつりとタバコを吸うまこの姿を見つけたんだ。


大きな赤い薔薇の花束を膝に乗せて、背中を丸めてタバコを吸っていた。


その赤い花束が、まこの白いシャツによく映えていた。


周りの景色が消えて、彼だけにスポットライトが当たっているような、それほど洗練されていた光景だった。


僕もタバコを吸おうとしていて、箱を手にしていたけどちょっと見とれてぼんやりしていたら、


「よ」とまこの方が先に気づいて手を上げた。


僕は曖昧に手をあげた。


その頃は今より親しくなかったし、あまり好きでもなかったから。


居合わせたことにちょっと後悔したんだ。





「お前確か教養部の神代……だったよな」


「うん。君は医学部の林だよね」


医学部には見えない。将来医者を目指してると思えば益々、だ。


何となく離れて吸うにはおかしかったので、僕はまこの前の灰皿まで移動した。


まこはメガネの奥で僕をじっと目で追うと、立ち止まったところで、花束をずいと差し出した。


「?」僕は首をかしげた。


「やる。俺にはもう用済みだ」


「用済みって……どうして?」


まこはちょっと顔が歪めると、大きくため息を吐いて、メガネを直した。





「やろうと思ってた女に振られた」





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