TENDRE POISON ~優しい毒~
僕が楠を―――裏切った……?
「ちょっと待って……状況が全くつかめないんだけど。僕が楠を裏切ったって、どうして?」
「すっとぼける気かよ!
俺ぁ知ってんだぜ。乃亜があんたと付き合ってたってことも。
あんたが本気な乃亜を一方的に捨てたってことも」
楠の言葉に、頭をガツンとカナヅチで殴られたみたいだった。
脳震盪を起こしかけたかのように、ふらふら眩暈がする。
「ちょ……ちょっと待って。僕と楠が付き合ってたって……?」
「だぁかぁら!言ったじゃねぇか!!こいつと楠の間には何もねぇって」
まこが苛々したように僕に助け舟を出してくれた。
「じゃぁ何で乃亜は死ぬ間際にあんたの名前を呼んだんだよ!」
楠がまるで噛み付きそうな勢いで僕を睨む。
「待って。楠が僕を……呼んだ?」
そんなの初耳だ。
「水月、倒れてた楠 乃亜を最初に発見したのは鬼頭 雅だ」
まこが僕をひたと見据えて静かに言い放った。
これが何を意味するのか分かってるだろ。
無言でそう問われているのが分かった。