TENDRE POISON ~優しい毒~



「え?忘れたってなんで?」僕はきょとんとなる。


「忘れたことに理由なんているのかよ。相変わらず天然だな」


そう言って、僕の額を指ではじく。



手加減されてたからそれほど痛くなかたけど。



「つべこべ言わず、泊めろよ。それとも何?女でもいるわけ?」


僕はぶんぶん首を振った。


女なんているわけない。






だって僕はずっとまこが好きなんだから……





僕は黙って鍵を開けた。



扉を開けると、飼い犬のロングコートチワワが走って僕のところにきた。


名前は“ゆず”だ。


他にも“りんご”とか“みかん”とか“イチゴ”とか候補があったけど、まこに相談したら『ゆず』が良いって言ったからこの名前に決めた。


ゆず、はまこの知人の獣医から引き取った子だ。もともと病気がちで、体重や体の骨格も小さかったゆずは引き取り手が居なくて困っていたと言う。


ゆずと兄弟だった子たちはすぐに飼い主が見つかったのだが。
(今はすくすくと元気に育っている。元気過ぎのオテンバ娘に少々困ったところもあるが)


僕のマンションはペットOKだし、僕が小さな動物を好きなことを知っていたまこが、ゆずを連れてきた。


ちょうど良かった。一人で寂しかったし。


僕は妹のつもりでゆずを可愛がっている。



ゆずは嬉しそうにキャンキャン小さく吼えると僕の周りをうろうろ。







そんなゆずをまこは軽々と抱き上げた。



「ゆず~久しぶりだな♪」


そう言ってまこはゆずにキスをする。








そのとき僕は猛烈にゆずに嫉妬した。



そして同時にゆずになりたいと思ったんだ。






< 63 / 494 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop