TENDRE POISON ~優しい毒~


着信:080-XXXX-XXXX


見慣れない番号だ。



ドキリとした。


出ようか、出まいか悩んだ。


どうして悩む必要がある。


鬼頭に番号を教えたのは僕じゃないか。


そして掛かってくることを、心のどこかで望んでいた。


でも、いざ掛かってくるとなると躊躇した。





出てしまうと、取り返しのつかないところまで行ってしまいそうで



怖かった。





でも、僕は出ることにした。



「……も、もしもし…」


『―――先生?あたし、鬼頭だけど……』


軽やかな少し高めの声が聞こえた。


僕の心臓がドキリドキリと波を打ってる。




『もしもし?聞いてる?』


電話の向こうで鬼頭が訝しげな声で問いかけてくる。


「聞こえてるよ……ごめん」


『何で謝るの?』


クスクスと、電話の向こうで声がした。


『遅くにごめんね…』


鬼頭のその言葉に僕は部屋の時計をちらりと見た。


時計は11時を指していた。




『今、何やってたの?』


まこと同じことを聞く。


まるで恋人のようだ。恋人……






だが今度のは意味合いが違う。



鬼頭とは何だかリアルだ。



「今は飼い犬相手にビール飲んでるところだよ」


『飼い犬?犬飼ってるの?犬種は?』



鬼頭の声が華やいだ。



「ロングコートチワワ」


『マジで?すっごい会いたいんだけど。犬すき』


鬼頭はなにやら楽しそうだ。



犬、好きなんだな。






「今度見に来る?」





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