小さな恋【完結】
藁(わら)にもすがりついてしまいそうなほど苦しい時、手を差し出されたら……


その手を必死で掴もうとしてしまう。


光を失ったあたしに、また新たな光がもたらされようとしている。


その光が以前とは違う輝きだと分かってるのに。


暗闇にいるのがどうしようもなく不安でたまらなかった。



「……あたしでいいんですか?」


そう答えると、一哉先輩は再びあたしの唇にキスを落とす。


一哉先輩とのキスは、ほんのりと煙草の匂いが入り混じった大人のキスだった。


何度も何度もキスをして。


その度に、何度も何度も不安の波が押し寄せて。


「……ま……いこ」


先に眠った先輩の寝言。


目を瞑ると、幸せなのに涙が溢れた。



あたしは先輩の腕に抱きしめながら、大知を想って涙を流した。

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