カベの向こうの女の子


ロングヘアーはそれから独り言みたいに呟いた



『先生そんなことしたの。意外に大人気ない…』



俺の心境とは裏腹に、ロングヘアーは実に落ち着いていてのほほんとしている


『あなたなんでそんなに慌ててるの?』



俺はその言葉に面を喰らった


なるべく平静を装っていたし、装えていると思っていたから―



電話ごしでもわかるくらいに俺はテンパっているのか


間抜けだな、そう自分を戒めたくなる



「慌ててねーよ」



『なら、いいけど。そんなこと言われても、事実じゃないなら、否定すればいいだけだしね』



当たり前のようにそう言うロングヘアーの言葉を聞いて、胸がピリピリと痛む


また春菜の悲しそうな表情が頭を過る…



『で、もちろん否定したんでしょ?』



なんだかつまらなそうな物言いに、俺はぐぅの音も出なかった



また、黙ってしまった


ロングヘアーは春菜より遥かに察しが良いのはわかっていたけど



その少しの沈黙で、すぐにこう言ってきた



< 206 / 219 >

この作品をシェア

pagetop