探偵ごっこ
第一章

少女の日常



赤茶色の長い髪を風になびかせ、少女は人混みのなかをただ面倒くさそうに歩く。
お気に入りのグレーのパーカーのポケットに手を突っ込み、そのポケットからはイヤホンへと繋がるコードが耳元へ延びている。
ガムを噛みながらショートブーツで歩むその姿はさながら今時の若者そのものだった。



有沢真也(ありさわまや)
―――通称、探偵シンヤ

彼女は、この街ではある程度名の知れた「探偵」であった。
というのも、捜査には一切手を抜かない上報酬は彼女が彼女自身の働きと依頼主に応じて請求する、という形をとっているからであった。

彼女の請求するものはお金であったり物資であったり、昼御飯だったりお菓子だったりと様々である。
―――彼女にとって、この仕事はただのごっこ遊びであった。

故に、彼女は請求を気紛れに変えることが出来た。







―――彼女は、ただ一人、街を歩く。
彼女に気付く人影は無い。
彼女にとって、世間体などはどうだっていいのだ。



ただ、歩く彼女に気付く人影は無い――ただ、ただ、彼女は人混みに溶け込んで。
当たり前のように、すれ違う人々もまた彼女には気付かない。
当たり前のように、そう、この人混みから彼女が消えたとしても気付く者など居ないのだ。






ただ、ただ、当たり前のように、


彼女もまた、人混みへと溶けていった。






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