恋愛温度、上昇中!


「え?午前中に終わったの?早かったじゃない」

冷蔵庫にあったサンドウィッチにかぶりついて、祥子に連絡を取れば、すぐにこちらに向かうと言った。
バックと靴は祥子に借りることにした。
車を持っている祥子はフットワークが軽い。

数十分後には「ハロー」とテンション高く祥子が現れた。

「適当に持ってきたけど合うかしら。それで?どんなのにした?」

紙袋を覗いて祥子はいいじゃなーいとはしゃいでいる。

「私も買って貰えば良かったかなー」

なんてしゃあしゃあと言ってのける祥子にお金は必ず返すしと語気を強めれば「丸めこまれてないじゃない、関谷もまだまだね」と笑っていた。


それから祥子の予約したサロンに連れていかれて、普通の美容室かと思っていたらトータルビューティーサロンと呼ばれるらしい店で、なにこの至れり尽くせりと目を白黒させる。
頭皮マッサージは勿論、ネイルケアからリンパフェイシャル。
正直、ここまでする必要があるのかさっぱり分からない。
「お任せします」と言えば手際よく髪が纏まっていき、「腰のある良い髪ですね」と笑顔を向けられれば太くて固いこの髪にもそんな褒め言葉があったのかと感心させられる。


「自分を磨くってのはね、時間もお金も沢山必要なのよ」


祥子が満足気に笑った。


「誰かに見られてる、っていうのを常に意識してないと腐るじゃない。綺麗でいないとモチベーションが上がんないでしょ」

祥子の言葉は妙に説得力がある。勉強、仕事、友情だとか、そんなのにはあっさりすぎる程ドライなのに。
誰かの視線を意識する、社長の言葉の核心もそこにある事は分かっているけど、私の乏しい経験値では想像が膨らまない。

「紗織?いつもは野暮ったいあんたも心配しなくても今日は綺麗だから!もっと自分を知るべき」

野暮ったい、は余計だけど、そうね。白いドレスを着た私に思わず見とれてしまった感覚と初めて買って貰ったランジェリーをつけた時の感覚は似ているかもしれない。
自分が女なのだと強く思わされる。
いまだに私はあの頃のまま自分の事なんて知らないのかもしれない。


< 123 / 418 >

この作品をシェア

pagetop