失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



「補習の星だな…お前は」

数学の教師が複雑な顔で

僕の再試験の答案を返してきた

あれから短い三学期はすぐに経ち

当然三学期の期末テストの勉強を

僕は再び完全に放棄していた

教師は補習の仕上がりは良いと

褒めてくれたらしい

学校で拘束されているほうが

家に居るよりましだ

勉強は放課後の補習で救われた

一年間のカリキュラムを習得すれば

テストだろうが補習だろうが

目的は達成するんです

僕は今先生の期待する普通の生徒

にはどうしてもなれないから

僕にも…事情があって

すみません…ここで学びます






担任は留年は出したくないし

ここは熱心な進学校でもない

僕は元々大学に行く気もない




音楽がやりたい

中学生の時それしか

僕には思い浮かばなかった

中1の頃親父の友達から中古の

エレキギターをもらった

スタンダードな青のフェンダーで

もらったついでに暇なときに

教えてくれることになった

僕はギターにのめりこんだ

毎日毎日弾いて母に怒られた

親父はブルーハーツが好きだった

僕は小さい時からそれを

聴かされて育った

練習にブルーハーツの曲を選んだ

『人に優しく』が一番好きだった

僕のパンク好きはそんなのもある

もっと小さい頃僕は思っていた

僕の未来は兄が全てだと

小さな女の子が将来の夢を訊かれて

「あたしお嫁さんになるの!」

というのとあまり変わらない意味で

僕はそう思っていた






もうすぐ高二になる

進路指導は必ずある

自分をごまかせるような

上手い言い訳が欲しい

仮にも何かに向かっていると

周りに納得させられて心配されない

上手い設定が欲しいんだ

例え上手くいかなくてもいい

何かしていられれば

目的があるなら人はそれに乗り

周りもその成り行きなど

最後まで見てはいない

当面何も無い事に人は心配する

だから…

自分すらごまかせる嘘

僕の《架空の人生》のための




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