失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「就職するまでうちに居なさいよ

大学院卒業するまであと二年でしょ

少し遠いけど…この前までここから

通ってたんだし…」

「…考えとく」

「あー…こんなことなら多少なりと

も家事させれば良かったわ」

「片付け…大変だった」

僕も話に加わることにした

「緊急事態だったよな」

兄が言う…間違いではない

「あれは驚きの大惨事だよね…母さ

んには絶対見せられない」

「写メでもとってきてもらいたかっ

たわ」

「無理…写メに収まらない」

本当に片付けは大変だった

まだ完パケではないし…

何枚ゴミ袋使ったかな?

しかも45リットルのでかいヤツ

彼が居なくなった後からの

兄の荒みようが良くわかった





今日は昼前に二人で目が覚めた

昨日僕は

兄に愛され

狂った

僕は兄に抱かれて初めて声を上げた

兄の腕の中で





目覚めて二人で改めて

部屋の惨状を見回した

二人で笑わずにはいられなかった

…到底

兄は言った

ここでメシを食う気にはならないな

確かに…と

僕も感想を述べた

近くのファミレスまで行き

ランチを取りながら話をした

僕は家に帰りたくないと訴えた

ここに居たい…と

兄は少し考えていたが

僕に向かってこう言った

俺が帰る

お前はまだあそこを出ちゃだめだ

俺がお前と一緒に帰る

また一緒に暮らせばいい

俺が居ればお前はお袋達と

なんとかやっていける

違うか?






僕はまた夢を見てるような

信じられない想いで兄を見た

兄は毅然としていた

あの罪悪感に打ちのめされてた兄は

微塵も感じることがなかった

一緒に…暮らせる…の?

僕はうわ言みたいに呆然と訊いた

そうだ

お前に嫌われるまではな

兄はそう言って笑った









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