失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】

聖夜




ほどなく

街はクリスマス一色になった



僕の所属する部活の音楽同好会は

1年に2回校外のイベントに

参加する伝統がある

1つは夏に開催の市の野外音楽祭

もう1つは冬のクリスマスイベント

高校の近くのキリスト教会で

クリスマスのチャリティーライブに

毎年参加している

かなり上のOBの先輩が

そこの教会の神父の息子で

父親のアイデアでバンドでの参加を

始めたのが切っ掛けらしい

以来生徒以外に自分たちの演奏を

聴いてもらえるという

部活の貴重な時間となった

歴代のOBの先輩達も聴きにくるし

同好会の家族も聴きに来たり

内輪の打ち上げ的な部分もあり

更に教会のクリスマスプレゼントや

クリスマスケーキが食べられる

僕たちは毎年のこのイベントを

結構楽しみにしていた



時間は15分、演奏は2曲

1曲はアメリカのロックバンドが

クリスマス仕様にアレンジした

『もろびとこぞりて』

ハードロックバージョン

ギターのフィードバックが快感な

チャリティーライブでも人気の定番

もう1曲はクリスマスにちなんだり

クリスマスでなく冬の曲でもいい

部活のメンバーで決める曲



僕たちは秋になると

クリスマスに向けて練習を始める

今年はギターが僕と2年生の先輩と

二人いるので一曲づつ弾く

僕は『もろびとこぞりて』担当で

週3の部活の練習に

重い気持ちで出ていた




 もろびとこぞりて
 むかえまつれ
 ひさしく待ちにし
 主はきませり
 主は来ませり
 主は主は来ませり



兄と僕に救いなんかないのに

妄想みたいなキリストの救いを

僕はクリスマスに演奏するんだ

なんて皮肉だろうか

でも僕は練習を続けた







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