【企】携帯水没物語
携帯水没
「もう会うことはないけどキミも元気でね」
あの後、リュウタの携帯は言った。
「そうね、あなたもどうか元気でね。修理に出されるとは思うけど、リュウタみたいなヤツが持ち主にならない事を祈るわ」
あたしは彼に言った。
あの後リュウタがナナミに何度も誤解だって説明しても無駄だった。
当たり前よ。
だってあたしの中にはリュウタがやり取りしていた全ての会話とメールがインプットされている。
それに会話の声は誰が聞いてもリュウタの声なんだから。
「クッソ!この携帯腐ってやがる!」
リュウタが彼を叩きつけた時、あたしも何だか痛く感じた。
黙っていれば彼はこんな扱いを受けなかった。
でも彼はナナミを、他の騙されている女の子のために自分を犠牲にした。
出来すぎた美談だけど彼の正義はあたし、好きだと思うのよ。
お節介が嫌いなあたしまで乗っかっちゃうくらいに彼はどの携帯よりもいい男だわ。
「この事は親に話して警察に訴えるから」
ナナミはあたしを握り締めてリュウタの部屋を去った。
バイバイ。
あなたはあたしの戦友だったわ。
あたしはそう思った。