【企】携帯水没物語
遺品という名の遺言

十月二日の朝、
教室は騒然としていた。

みんな興奮しているような困惑しているような変な慌て方をしていた。


「何?なんかあったの?」


万里子はわたしを強引に窓際へ引っ張っていった。

「あそこ、ほら、東佳、見えないの?」

万里子は空を指差した。

わたしも万里子の指差す方へ目をやる。

「は?なんもないけど……!?」

そこだけ平面のように見えた。


まるで、
物の厚みが全てなくなって、

目に張り付いたように。

「里奈っっ!?」


わたしは窓から体を乗り出した。


里奈はわたしの方を見て、一瞬、微笑んだ。


フワリ―…


時間が鉛のように流れて、わたしの伸ばした手は里奈には届かない。

わたしの目の前を里奈が堕ちてゆく。

目をそらすこともできなかった。

周りの悲鳴が、音が全て遠くに聞こえた。

そう、里奈の体が鈍い音をたてて土の上に横たわるまで。





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