龍の花嫁~ちはやふる・冬絵巻~
私は文を手にして、彼を追い駆ける。
愛しき君……。
教養のない私でも…理解できる…これは私に対しての恋文。
雪解けまで恋だとしても…私自身もあなたに思いを伝えたかった。
私は龍神様の住む泉に辿り着いた。
一面は時が止まったかような静けさ。龍神様の眠りを妨げて申し訳ないと思い
ながらも彼の姿を探す。白い息を吐きながら畔を駆けた。
私の足跡で雪は軋しんだ音を立て、吐息とともに僅かであるが声も出る。
龍神様には申し訳ないが私は必死だった。断腸の思いで彼をひたすら探す。
半周回った辺りの畔に彼が持っていた平氏の旗が落ちていた。
その先には割れた氷上。割れた氷の隙間から揺れた水面がさざ波を立て
朝の陽光に反射して輝やいていた。
誰かが過って落ちた様子が伺え知れた。
私は泉に飛び込んだ…。彼の姿を探して……深く身体を沈ませる。