ハネノネ
外へ出ると、町は白いハネに包まれている。
この小さな町でいったいどれほどの人間が生きているのだろう。
考えるだけで、少し寒気がした。
季節は確か冬になろうとしていた気がする。
日本にハネが降ってきてから、大学が休校になった。それから二年も経っていれば、月日の感覚が鈍るのはすぐだった。
それに加え、降ってきては地面から消えてなくならない白いハネの存在で、なんだか年中冬の中にいるような気がする。
気休めで付けている毒予防のマスクの下からハァッと息を吐いた。
マスクからうっすらと白い息が漏れ出て、
たくさんの人が亡くなったこの町で、自分はまだ生きているということを不思議に思った。
向かう先は友人、コウスケの家だ。
コウスケもまた、ハネの病を患っていた。
通常、ハネの病で背中に羽根が生えてから死に至るまでの期間は、個人差はあるものの、せいぜい1ヶ月から3ヶ月程度だ。
しかしなぜかコウスケだけは
背中に羽根を生やしてもう一年も経っている。
精神は通常のように壊れているが、だからこそ、その壊れた精神で一年も生き続けているのが、友人として見てて痛々しい。
そんな異例の出来事に、姉は飛びついた。
「ワクチン開発の手がかりになるかも知れない」と言いながら、コウスケのそばで研究がてら面倒をみている。