火星より愛を込めて
「あの〜、何でもやってくれるって本当でしょうか?」

 茶色い癖っ毛を右手で掻きながら言った。

「もちろん。犯罪を目的とした非合法な仕事以外なら何でもやりますよ」

 と、デスクの男、マック・マーリンは言った。

 マックのやっているマック商会とは、殺人などの犯罪を目的とした非合法な仕事以外なら何でもやる〈何でも屋〉であった。

「そうですか、それを聞いて安心しました。なかなか引き受けてくれる人がいなくて、もちろん、秘密事項は守ってくれますね」

「はい、それは大丈夫です。仕事に関する機密性は保証しますよ。それで仕事の内容は?」

 マックは、デスクから身を乗り出して聞いた。

「ええ、実は、ある品物を火星から地球へ運んで欲しいのです」

 男はゆっくりと仕事の内容を話し始めた。それと同時に、その仕事に関する書類がオフィスの情報核《データコア》に転送されてきた。

 それによると、男の名はミントといい、総合化学メーカーとして有名なOUT社の開発部の部長をしているということだった。

 仕事は、火星にある研究所から、地球の本部研究所へ新製品のサンプルを運ぶというものだった。

 ただ運ぶだけなら、自社の専用船を使えばいいのだが、ライバル企業がそれを阻止し、さらにはそのサンプルデータの強奪を企てているので、非武装の輸送船を出すわけにはいかないのであった。

 かと言って、警備会社や、ポリスつまり汎地球文明圏治安機構に頼んで護衛を付けてもらえば、大事となり、今度は会社のイメージダウンに繋がると言うことだった。

 そういう訳で、隠密理に〈何でも屋〉を使って運ばせようと言うのであった。

 マックは、ミントの話を聞きながら、情報核に送られてきた書類を必要な物だけ高密度言語でデータカードにプリントアウトし、残りは情報核内の機密フォルダーに放り込んだ。
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