化学室のノート【短編】



「4月に、また会おう。
そのとき名前を教えてやる」




私の頭をぽん、と撫でて
彼は笑う。




「うん。
私の名前は…もしかして知ってたりする?」




「いや、あえて知ろうとしなかったよ。
あんたの口から聞きたかったから」




「…じゃあ、私の名前も4月に」




「ああ」




そっと彼の手が
私の頭から離れてく。




「それじゃあまた、ノートで」




「うん。
ノートで」




明日からは3月だ。




あと一ヶ月。




私たちは
ノートできっと語り合う。



春になるのがもどかしくて、




それでいてほんの少し寂しい。




< 51 / 54 >

この作品をシェア

pagetop