汚レ唄


海?


今にも走りたい衝動に駆られるけど車が危なくて走れない。





海は好き。

先の見えない海。


広くて大きくて空のようで好き。


水を見てると自然と癒される。


波の動きは安定してて、聞いていて落ち着くから。


波の音がはっきりと聞き取れるようになってきた。





独特の潮の香りがする。

この匂い好き。





「麻緋、ここなら遠慮しなくていいよ」

蒼に言われ、ここが到着点だと気付く。




海に連れてきてくれたんだ。


歌いたいと願った私に蒼は海を招待してくれた。


どうしてこんなに理想的なんだろう。





家なんていう密封された空間じゃなくて本当は広い広いどこかでめいいっぱい歌いたかった。


声を抑えて歌う自信なんてなかったんだ。





「歌っていいんだよ」

蒼がコレまでに無いくらい優しく穏やかな声を出すから、私は堪えられなくなって波打ち際まで駆けて行った。


砂が足にかかって気持ち悪いけど、嫌じゃない。


波が足にかかりそうなところで立ち止まり、瞳を閉じた。


波の音が心地いい。

波の一定のリズムに乗るように体を揺らしながら歌いだした。





< 479 / 665 >

この作品をシェア

pagetop