この夜が死ぬまで
プロローグ

颯太とかすみ

そういえば、寒い日の夜だった。

ピンポーンとチャイムが鳴って、ドアを開けば優しそうな夫婦と仏頂面の男の子がいる。
奥さんがにっこり柔らかく微笑むと、手に持った紙袋を私に差し出し


「隣に引っ越してきた平野といいます。よろしくね。」


と言った。声まで優しい。私は緊張したまま何も言わないで紙袋を受け取った。
遅れて出てきたお母さんは、早足で、すみませんと一言侘びを入れてよろしくお願いしますといって会釈をする。


「お土産なんてもらっちゃって、すみません気を使わせて」
「いいええ、たいした物ももってこれなくてすみません」


とお母さんたちは大人の挨拶のようなものを交わす。
私は紙袋の中が気になっていたけれど、途中でお母さんがあら!と変な声を上げるので私も顔を上げる。
開いたドアから入る風が冷たくて顔が痛い。


「男の子がいるのねえ。かすみと同じくらいかしら?」


仏頂面の男の子は、奥さんの後に隠れた。旦那さんは笑ってる。


「かすみ、ちゃん?は何歳なの?」
「8歳です」


その、平野さん夫婦はふわふわと微笑んでその仏頂面の男の子を見た。


「颯太、同い年だって」
「・・・聞こえてたあ」
「じゃあ挨拶しなさい、ほら」


どんと押されて無理やりに前に出された颯太と呼ばれる男の子は私の目の前にくる。
そおっと私に目線をうつすと、またすぐに逸らして

「おれ、ひらのそうた、よろしく」

と早口で言った。早口すぎて苗字が聞き取れなかった。


「わたしはしのやまかすみです、よろしくね」


少し恥ずかしくて頬が緩んだ。
颯太は、変な顔と言いながら笑う。


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