罪過
「カナ」


優しい声。


あたしは差し出された手を掴んでいた。

大きな手のひらが、あたしの手をすっぽりと包み込む。



暖かい。



掴んだ手に、力強く引かれ。

立ち上がったあたしを、カレは自分のもとへ引き寄せた。

胸元におさまったあたしの中で、何かががわめいた。





ダメ……





心で、もうひとりのあたしがささやいた。

ささやいたけれど、声に従えなかった。

抱き寄せられ、あたしの顔がカレの胸元に押し付けられると、まとわりつくような香りがした。

雨の匂いと汗、それから香水が混じった匂い。


それは懐かしい匂い。


誰か知らない男から漂う香りに、体の奥が震え、深いところは熱を生んでいく。

それ以上考えたくなくて、あたしは目を閉じた。




雨はまだ、続いていた。




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