俺がこの空を見上げる意味




いつだったか。



ここに来て、何年か雑用坊主として使われて何年かして、政隆の前に連れて来られた。



まだ記憶が朧げな頃だ。



はっきりとは覚えていない。



ただ、断片的に、政隆の言葉が思い出される。



わけもわからず襟首を引っ掴まれ、政隆の前に膝をつかされた。



その時、政隆は優しく笑って俺の頭をなでたんだ。



「坊主、名前は?」



俺は答えなかった。



というか、答え方がわからなかった。



物心ついたときから坊主として使われ、会話らしい会話はしたことがなかった。



名前なんてそもそもある意味すら知らなかったし。



黙っている俺に苛立った様子も見せず、政隆は続けた。



「ないか?
お前みたいな奴は多いのだ。
よし、わしがつけてやろう。」



うーむ、と政隆は唸った。



俺は、そのとき恐怖を感じてた。



そう、怖かったんだ。



だって、大人がそんな声を出すときは決まって俺のお仕置き方法を考えるときだったから。



だから、ぽんと政隆が手を打ったとき、何をされるのかとそれで頭がいっぱいだった。



「よしよし、お前の名は今日から千歳だ。
千年生きろよ。」



そう言って政隆がわしゃわしゃと頭をなでたときは、今自分がどういう状況にあるのかまだ理解できてなかったんだ。





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