私を買ってください
 明らかにおっさんの俺が若者的ファッションビルの前で立っていることが、自分ながらいかがわしい…。メールにはただ、
『明日12時、駅前のラブレ入り口で、目印を返信お願いします。東高女子より』
美人局かなんかと軽く邪推してみるが、体裁ばかりで息苦しいこの地方都市には、そういう輩の居場所はなかなかない。返信した目印を持ってただ待つ。
ほどなく、見覚えのある制服姿の[女子]が小走りに駆け寄ってきて、にかっ!と笑うと敬礼のポーズ。
「学生番号2805番、水野さやかでぃす!」
「おれは学生番号300番くらい、土橋稲穂、」

 近くの、家族とはよく行っていた店のテラスに座り、定番メニューの、きのこのつぼ焼きをパイ生地とソースをバランスよくほおばる、水野さやか。こちらの昨今の食生活は昼は仕出し、夜はコンビニの弁当攻めで、旨いものに口と胃がびっくりして思わず、えづく…。
ジャムのたっぷり入ったロシア紅茶の紅茶とジャムの層をからんからん、とかき混ぜて、口へとはこび、深呼吸。ようやく女子はひと心地ついたようだ。
「恥ずかしながら、単刀直入に言うと、ブランドものの財布、です。ガッコーは外見だけ厳しいから、カバンの中を贅沢にするのが女子のあいだで流行ってる。ほどほどにリッチな娘ばっかりで、ピンチーって感じ、イジメ防止のために、お願い!です」
上目遣いに笑顔で様子をうかがっている。
「ああ、全然オッケー。」
仕出し、コンビニ弁当くらいしか買わない自分には、いかに有意義な使い道だろうか!
とひとりごちて、
「それでなぜ俺でもいいわけ?」
少しためらった後、大真面目な顔でこちらをみつめ、
「オジサン…目が死んでるから、です…」
< 3 / 7 >

この作品をシェア

pagetop