桜、月夜、愛おもい。


「奈津」


ぼぉっと考えをめぐらせていると、珍しく明菜さんが私の名前を呼んだ。

いつもは「ねぇ」や「おい」なのに。


「…何?」


怪訝に思いながら返事する。

明菜さんは、少し間をおいて言った。


「ううん。なんでもないわ。買い物行って来る」



そこで今日初めて明菜さんをまともに見た。


服は着替えたばかりらしく、シワクチャにはなっていない。

でも顔はやつれていて、髪はてきとうに整えたようでボサボサだ。



ほんの少し、心配になった。



「……明菜さん?」



顔がやつれているのも髪がボサボサなのもいつものことだけど、何だか今日はいつもとは違う気がした。



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