見えない糸

紗織は直次の隣に座ると、コーヒーを一口飲んだ。

「先生に話す前に、用意して欲しい物があるの」

「ん?何を?」

「アタシに関する事を書いた資料。それに写真。あとは先生の手帳」

直次は頷くと部屋に戻り、紙袋に詰め込んだ。

そして袋の中には、紗織から頼まれていない、テープレコーダーも。

紗織の言葉をメモしておきたいが、多分出来ないと思う。
いろんな感情が出てきて、手は止まったままになると思う。

紗織の目の前にレコーダーをセットすると、言えるものも言えなくなってしまう恐れもあるから、紗織に知られないように紙袋の中にセットしておくのだ。



「ちょっと待ってくれ」

直次は持ってきた紙袋をテーブルに置くと、紗織に向かって言った。

「何?」

「万一、ちゃんと思い出していないのに、この書類や写真を見て話を作ってしまうという可能性も無いわけではない。紗織を信用してるとか信用していないとかじゃないんだ。そこは分って欲しい」

「…わかったよ」

紗織は頷きながら答えた。



直次はコーヒーを飲み干すと、紙袋の中から手帳を取り出し、そしてレコーダーのスイッチを押した。


「紗織…言いたくない部分があったら、俺は無理には聞かない。紗織の話を俺は黙って聞くことにするよ。質問とかは、紗織が全部話し終えた時にするから。いいね?」

「はい…わかりました」


紗織は胸に手を当て、深い溜息を2回つくと

「じゃ…思い出した事を話します…」

そう言った。

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