見えない糸
「今日は仕事ないの?」

ココアを淹れながら紗織が聞いた。

「ああ、急ぎのものは無いよ」

ビールを飲みながら直次は答えた。

テーブルにあったあの【手紙】の上に、わざと新聞を重ねて、それを見えないようにした。

「アチ…」

フーフーとココアを冷ましながら、紗織もリビングのソファーに座って、テレビのリモコンを押した。

今人気の、お笑いコンビが罰ゲームを受けている。

それを見て声を上げて笑う紗織と、笑えない直次。

テーブルを挟んで対照的の2人。

笑いの『ツボ』が違うんじゃない。

あの手紙が気になって、紗織が気になって、楽しいものも楽しめない。


「オジサン、どうしたの?難しい顔して」

紗織の一言で、ハッと我に返った。

「…ん?どうもしないよ」

テーブルに置いてたビールを飲む。

「ウッ!!」

どれくらい、考え込んでいたんだろう。
ビールが温くなって、飲めたもんじゃない。

「大丈夫?オジサン」

「ああ、大丈夫だよ」

笑いながら紗織に言うけど、紗織と目が合った途端、思わずその視線を逸らしてしまった。





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