見えない糸
冷蔵庫からビールを2本取り出し、部屋に戻った。

椅子に座りプルトップを開けると、半分くらいまで一気に飲んだ。

キンキンに冷えたビールが、喉の奥まで流れていく。

胃がキュッとなる感じが、直次は好きだ。

「クーッ!」

思わず声が出る。
 
それからタバコに火を点けた。

アルコールを飲むと必ずタバコを吸いたくなるのだ。

ジジジッと灰に変わる音と、赤く光る炎を見ながら、ゆっくり煙を吐き出す。

この、ゆったりした時間が、今の直次には必要だった。


始めての治療だから、紗織もかなり疲れただろう。

潜在意識の中から、過去の記憶の糸を探し出すんだから。

ただ、今回で分かった事は、どうやら小学校時代に何かあったようだ。

「話したくない」と言っていた紗織。

どうして話したくないのか?
原因は何か?

早く理由を突き止めたいが、急げば悪い方向に行きそうな気がする。


直次はパソコンに向かった。

紗織の表情、話し方、治療前後の様子などを細かく入力し保存した。


気がつけば、灰皿にはたくさんのタバコの吸い殻があり、テーブルには飲み残しのビールがあった。

「2本なんて持って来なきゃ良かったな」

直次は灰皿と缶ビールを持って、1階に下りた。


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